0008

春香
殴られた事はないし
衣食住やお金はもらっていたし
怖い思いをしたわけでもない
だから自分でも気づくのが遅くて
いつの間にか訳もわからず食べては吐いて
生きている実感がなくて
世界がスクリーンの向こうのように見えていて

でも
自覚がなくても直感ではわかっていた
「こんなの家族じゃない」

衣食住とお金を与える事が愛だと
それさえあれば子供は育つと思っていた両親から
心の奥底に響くような
情緒的な温かい何かをもらった事は一度もない
もらえないのが当たり前だと思っていた

でも今は
いろんな人が
瞳の奥の温かいものの存在に気づかせてくれて
私にそれを分けてくれる

だから私の中にも温かいものが育って
吐くことも
自分を責めることも
寝込むこともなくなった

これはこの世に生まれたすべての命が
当たり前にもらえるものだったんだ
生まれた時からもらえていたら
今ごろどんなに素敵だったろう

だけど
もらえなかった今の私も嫌いじゃない
もらえるのが当たり前の人には見えないものが見える

まだ世界はスクリーンごしに見えているままで
治療も道半ばだけど

生き抜いて戦い抜いてきた私を誇りに思う
そして
支えてくれた夫とすべての人に
ありがとう
もう大丈夫だよ

虐待サバイバー写真展

親からの虐待を経験し、それでも親の手から生きのびたサバイバー達の「生きている」写真を撮っています。 これから先の道に希望が満ちていくような願いを込めて作ったサイトです。 15人の被写体の方の応募は締め切っています。この後、虐待サバイバー写真展は、書籍化、実際の写真展に向けて動き出します。